志貴が重傷を負った。

そんな信じがたい情報を耳にした士郎の行動は速かった。

転移魔術を込めた石を二つ(往復用だ)ポケットにねじ込むと、イスカンダルに乗せられて『封印の闇』の範囲外に移動、そこからイスタンブール郊外に転移、その足で志貴が入院していると言う病院に直行したのだった。

「志貴!!」

蹴破る勢いのまま病室に飛び込んできた士郎を出迎えたのは

「士郎か?」

「士郎!おのれ、何時眼覚ましたんや!」

「士郎じゃないの!」

「その声・・・士郎か?」

ゼルレッチ、コーバック、青子、そしてベッドの上で半身起き上がらせている志貴だった。

その眼の部分には包帯が巻かれていたが。

四十九『義眼』

「思ったよりも元気そうだな」

「まあな。一番の深手はこれだけだから」

志貴は包帯越しに眼をさする。

「それよりも士郎お前何時眼を覚ましたんだ?」

「そうやった、士郎、おのれ何処にいたんや?」

「そうそう、私達さんざ探し回ったのよ」

「そうだな俺もそれについては知りたい」

とそこへ一斉に士郎に質問が集中する。

「ええ、わかっています。全てお話します」

そう言って士郎は一時離脱後何処にいたのか?何時眼を覚ましたのか?そして伝わっていると思われたが『イギリス南部攻防戦』の顛末も士郎が知る限り等、そしてバルトメロイの関係等も全て話した。

「・・・そうか、『魔術使い』の系譜であったのか。お前の養父は」

「師匠も知っているのですか?」

「ああ」

「では『代理人』の事も?」

「当然だ。だからこそお前に固有結界の事は教えなかった。もしかすれば、固有世界に昇華するかも知れぬと思っていたが・・・」

「だけど士郎、お前無茶したな。バルトメロイと決闘なんて」

「まあ俺の自己満足だけどな、ただ、ああなるとは予想を超えていたよ」

律儀にも懐に入れていた鍵を手に溜息を吐く士郎。

「それよりも、志貴、お前の眼はどうなんだ?」

「ああ、眼球は摘出された」

「じゃあ、『直死の魔眼』は・・・」

「いや、まだ生きている。『直死の魔眼』の大本は脳髄の方にある。眼球はむしろそれを明確な画像として映しているにすぎない」

「つまり脳髄が映写機なら眼球はスクリーンと言った所か」

「言いえて妙だな」

苦笑を口元に浮かべて志貴は頷く。

「で、どうする?必要ならアヴァロンを創るぞ。眼球の再生くらい出来る筈だし」

以前カレンのぼろぼろとなった体内を完全に治癒させ、士郎の瀕死の重傷もいとも容易く治した奇跡の鞘だ。

眼球ならお手の物と思われた。

だが、それに反して志貴の表情は浮かず首を横に振った。

「ありがたいけど士郎それは遠慮しておく」

「??何か不都合でも」

「ええ、まさかあんたが眼を覚ましているとは思わなくてね」

ばつが悪そうに青子が頭を掻く。

「??青崎師、何があったのですか」

「ええお姫様達があんまりにも大泣きするから、眼を蘇らせるって約束しちゃって・・・最終手段を取ったのよ。ったく、士郎が眼を覚ましていたって言うのなら早まるんじゃなかったわ」

「最終手段?」

「そ、あんまりやりたくなかったけど・・・うちの姉貴を説得して義眼作成を依頼して、その義眼を埋め込んでいるのよ志貴」

「「ちょっと待て(待たんかい)」」

そこにコーバックとゼルレッチが同時に突っ込む。

「あれを説得と言うんか?」

「あれを依頼と言うのかお前」

二人の言いように言い知れぬ不安を感じた士郎がとりあえず確認を取る。

「えっと・・・何をやらかしたんです?青崎師」

「失礼ね士郎、その言いようだと私が一方的に悪いみたいじゃないの」

「その通りやろ実際」

青子の反論をコーバックが返す刀で突っ込んだ。

「寝ている所を問答無用でたたき起こして、転移を含めてイスタンブールまで引きずり、挙句の果てには問答無用で脅迫すりゃ誰でもきれるやろ」

「・・・時差を考慮してなかったんですね、青崎師・・・」

ふとイスタンブール郊外がやけに荒れていた事を思い出す士郎。

時折クレーターまで出来ていたがその時は『六王権』軍との死闘の名残としか認識していなかった。

そこまで考えたのだが、その先を考えるのが怖くなり、精神衛生の為に忘却の彼方に追放する事にした。

「まあそれはそれとして、そうなると志貴の眼は回復したと見ていいんですね」

「いや」

士郎の質問を志貴本人が否定した。

「まだ視神経が義眼とくっついていない。今は正真正銘の眼を似せたものに過ぎない。視神経と義眼が結びつけば視力が回復するけど、それには時間が掛かると先生のお姉さんが言っていたよ」

「まあ普通なら治癒魔術で直ぐに接続も出来るけど、志貴の眼は特殊な部類でしょ。『直死の魔眼』の切り替えが難しくなる可能性があるから念を押すって言っていたわ」

先程の例えで考えれば配線不良でスクリーンに映しにくくなると言う事かと士郎は納得する。

「どれ位掛かるんですか?志貴の眼の復活には」

「くそ姉貴曰く、長く見積もっても三ヶ月前後だって言っていたわ」

「三ヶ月・・・きついな・・・」

「なに構わん。どの道エレイシアとも話し合って、この眼の負傷を名目に日本に帰還させる気でいたからな」

「ああ、『六王権』軍自体はかなり弱体化が進んでおる。当然油断は出来へんけど、主だった二十七祖は志貴と士郎の二人で殆ど潰しおったからの」

確かに、『六王権』軍は既にヴァン・フェム、エンハウンス、ネロ・カオス、オーテンロッゼ、グランスルグと、『六王権』と側近衆を除く二十七祖の内、五の祖を葬った。

特にグランスルグを失った事は敵には相当の打撃となっている。

「アメリカへの死者投下がグランスルグを撃破してからぱったりと止んだ。混乱の収拾にようやく政府が手を付け始めたと報告が上がっている」

「それに、欧州の制空権を奪還した事で近々空爆を再開させる目処も付いたらしいわ」

「それに加えて、騎士団、『彷徨海』、アトラス院の残存戦力の再編成はようやく終わった。完全な空白地帯となった北アフリカ方面から反攻作戦を行う事も決まったで」

「徐々に反撃の布陣が整ってきたって事か・・・ですがそれでも志貴を離脱させる事は」

「志貴だけやない。士郎己もや」

「へ?俺も?」

「ああ、これはロード・エルメロイU世からの極秘情報だが、協会上層部の一部がお前を厄介者扱いし始めた。近い内にお前にロンドンからの退去を命じる可能性がある」

「へ?何でまた」

「ほら良くあるでしょ?有力な戦力を無能な味方が下らない嫉妬で冷遇するって」

「まあ確かに。でも俺よりも有力な戦力は多いですよアルトリア達もそうですし」

「何言ってるんや士郎。今までのロンドン攻防戦での武勲、己が独占状態やろ」

コーバックが指摘する様に過去四度にわたって行われた『ロンドン攻防戦』では、主だった武勲は士郎が独占していた。

第一次では崩壊寸前だった魔道要塞防衛ラインを英霊達と共に防衛し、『六王権』軍に大打撃を与えた。

第二次では敵将ルヴァレを討ち取り、第三次では最高側近『影』を討ち取るまでには至らなかったが、それでも退かせる事に成功。

記憶に新しい第四次『イギリス南部攻防戦』では死徒の王である『白翼公』オーテンロッゼをを討ち取った。

無論協会の魔術師もそれなりに武勲を挙げているが士郎には到底及ばない。

ただでさえ、これまでの醜態に協会の評価はがた落ちの現状で、武勲を外部の人間が独占しているこの現状に焦りが出ていると言う事だろう。

「馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけどそれに加えて視野が狭くなると救い様が無くなるわ。士郎がどれだけロンドン防衛に貢献してきたのか脅威がなくなった途端に忘れるんですもの」

「ロード・エルメロイU世は復旧途上である魔道要塞の現状を鑑みて士郎の退去には反対の姿勢を貫いているが、士郎退去の支持が大勢を占めつつあるということだ」

「・・・別に個人的な武勲の為に戦った訳じゃないんですが」

「己がそう思っておってもレンズが歪めば映る像も歪む。それだけのこっちゃ」

「仕方が無いか。まあロンドンの防衛に関しては凛にアルトリア達もいます。それにイスカンダル陛下とディルムッドにもロンドンに残っての防衛を要請しますからそれでどうにか」

「それだけ英霊が揃えば問題は無しやな」

「ああ、そうだな。一先ず士郎」

「わかっています。最悪の事態の想定して動いておきます。で、師匠、志貴は何時ごろ日本に?」

「後数日もすれば退院して自宅療養する。アルクェイド達と一緒に日本に帰還するよ」

「そう言えば・・・当のアルクェイドさん達は?」

「志貴の日本帰還は決定しているから土産を買いに出掛けたわ」

「そうなんですか、皆さんの事ですから率先して志貴の世話を焼いているんでしょうね」

「言うまでも無い事だろう」

「確かに」

ゼルレッチの言葉に全員声を揃えて笑った。

そこに当の『七夫人』達が帰ってきた。

「志貴、今戻りました・・・あっ」

「あれっ?士郎だ!」

「本当だ!士郎君」

「衛宮様、眼を覚ましていたんですか?」

「ええ、ご心配をお掛けしました」

「元気そうね士郎君」

「アルトリア達に助けられたおかげですよ」

「兄さんのお見舞いに来てくれたんですか?ありがとうございます」

「ですが、衛宮様、ロンドンを離れて大丈夫なんですか?」

「ああ、それについては・・・」

しばし、士郎は志貴や『七夫人』と久しぶりの歓談を過ごし、面会終了時刻ぎりぎりまで滞在していた。

そして直ぐにロンドンに帰還したが、その士郎を待っていたのは協会からのロンドン退去要請・・・殆ど命令に等しいものだった。









「どう言う事ですか!!協会は何を考えているのです!!」

この要請を一瞥した瞬間、開口一番激高したアルトリアが咆哮した。

文章は極めて丁寧であったがその内容は要約すれば『もうお前は不要だからとっととロンドンから出て行け』と言っているようなものである。

「シロウがいなければロンドンはとっくの昔に陥落していたのですよ!!だと言うのに厄介者扱いの挙句追い出すとは!!・・・」

憤激のあまり言葉が繋がらない。

他の面々も突然の事に憤激する者、呆れる者、多彩であったが、程度の差こそあれ、今回の事を歓迎していない事は明白だった。

一方当の本人である士郎はと言えば・・・

「・・・」

まさかこんなに早くロンドン退去要請が出た事にやや面食らったが、最悪を想定していたのでさほど衝撃はなかった。

呆れはあったが。

「イスカンダル陛下、ロード・エルメロイU世はこの件については」

「ああ、ウェイバーの奴はこいつについては一貫して反対の立場を取っていたが他の連中がこれを支持してのう、結局多数決で決まってしまったわい」

あまりの事に呆れよりも諦めすら浮かぶ。

「しかし、エミヤ殿、ずいぶんと落ち着いているようですが」

「ああ、俺は師匠経由でこの可能性があるって教えられたから。まあ、こんなにも早く来たって事には面食らったけど。どちらにしろ、受け入れるしかないだろうな。意固地になって反対しても大勢が覆るとは思えない。そうなればみんなに迷惑をかけてしまう」

「ですが、シロウこのような理不尽許して良いものなのですか?」

「俺だって納得はしていないさ。だけど、こうなった以上は受け入れるしかない」

『・・・』

士郎も含めて理解はしたが納得はしていない。

だが、協会の決定である以上受け入れるしかないのが本音だった。

何しろ士郎は協会の所属ではない、強いて言えば義勇兵と言った所だ。

だがこの方面の防衛の総指揮は協会にある。

その協会の指揮系統を無視して一義勇兵が勝手に動き回れば全体の指揮系統にも支障が出てしまう。

「それで、ディルムッド、イスカンダル陛下、申し訳ありませんが」

「判っておる。乗りかかった船だ。此処の防衛しっかり行ってやるわい」

「ええ。私も全力を尽くさせて頂きます」

「よろしく頼みます」

「それと士郎、志貴の方はどうだったのよ?いきなりの事にすっかり忘れちゃったけど」

一区切り(納得はしていないが)付いた所で凛が話を変える。

「ああ、とりあえず蒼崎師のお姉さんが志貴に義眼を創ってくれていたよ。ただ視力や魔眼の安定には時間が掛かるらしいから日本に帰還するようだ」

「えっと・・・それでしたら私も一端日本に帰らないと・・・」

「へ?」

そう言った桜に全員の視線が集まる。

「忘れていないか?桜は学校。もう直ぐ夏休み終わるんだから帰らないと」

全員が顔を見合わせる。

確かに今は八月の下旬、もう間も無く九月となれば学校は新学期に入る。

この一ヶ月、戦況が目まぐるしく変化していたので桜本人を除く全員、その事を忘れていた。

「じゃあ当然だけど私も帰るわ。何しろ私はご主人様使い魔なんだから」

それに追い討ちをかける様にレイが勝ち誇った表情と声で言い放つ。

『ご主人様』と『使い魔』を殊更に強調しながら。

そんなレイに殺気が集中するが当の本人は何処吹く風、全く堪えた様子はない。

「仕方ないわね・・・桜は帰ると言うのならメドゥーサも?」

「勿論です。私はサクラの守護が第一ですから」

「そう、少し痛いけど、士郎がディルムッドにイスカンダルを残すからまだどうにかなるか」

「そうですわね」

その後も話し合いは続き結局、士郎、桜、メドゥーサ、レイ、宗一郎、メディア、カレン以上七名が日本に帰る事になった。

戦力の低下は否めないが、その分、セタンタ、バゼット、ディルムッド、イスカンダル、イリヤ、ヘラクレス、セラ、リーズリット、がロンドンに残る事になったのでどうにか補う事はできる。

「それで士郎、何時日本に帰るの?」

「ああ、特に期日期限は無い様だ。まああまり長居して向こうの心証を悪くするのも良くないからな。幸い持ち込んだ荷物もないから身軽だし、直ぐにでも帰れるさ。師匠からも帰還用の転移宝石も貰ってきたし」

「あ、じゃあ私達も一緒で良いですか先輩?」

「ああ」

「では明日日本に帰ると言う事で宜しいでしょうか?」









人類側に動きがあるように『六王権』軍側でも動きがあった。

『闇千年城』では『ダブルフェイス』を介し、『六師』、そして前線総司令官に新たに就任したリタ、海軍総司令スミレが緊急の会議を開いていた。

「総員知っての通り、先日の戦いでオーテンロッゼ、そして『鳥の王』を失った。幸いオーテンロッゼについては既にオーテンロッゼのレプリカを創り上げた甲斐もあり戦力はさほど消滅せずに済んだ」

そう言う『六王権』の視線の先には士郎との死闘の果てに消滅した筈のオーテンロッゼが立っていた。

しかし、その眼には生気は無く表情も虚ろ。

ただ呼吸しているだけにしか見えない。

実際、このオーテンロッゼは、そこにただあるだけのものに過ぎない。

ヴァン・フェムが苦心の末ようやく創り上げた新生七大魔城の一つ『ベルフェゴール』。

その性能の特殊性故に、三体のプロトタイプしか創れなかった事は以前にも述べた。

だが、それ以外にも数多くの失敗作をヴァン・フェムは生み出していた。

その内の一体が今のオーテンロッゼ、身体機能は完全に模倣できるが自律する事は出来ずその様はまさしく生ける屍。

だが、身体機能は完全に模倣できる点に注目した『六王権』は本物の祖が消滅し、眷属である死者や息子以外の死徒が消滅しない様にこの失敗作でまず試作として現状戦力の大半の死者、死徒を支配するオーテンロッゼの人形を創り上げた。

その目論見は見事成功し、オリジナルのオーテンロッゼが消滅しても木偶人形と化した偽のオーテンロッゼを主とみなし、その繋がりから消滅する事無くオーテンロッゼの軍団は今も『六王権』軍の主力を担い続けている。

「しかし・・・」

ここで『六王権』の表情が曇る。

「『鳥の王』を失った事は痛手と言うほかない。有力な味方を更に空軍をも我らは失った」

『六王権』軍の現在までの快進撃、それを陰日向と支え続けた要因の一つにグランスルグ率いる空軍の存在があった。

彼らが欧州の空を支配し続けたお陰で『六王権』軍は何の支障も無く進軍を続けてきた。

だが、空の支援はもう見込めない。

グランスルグが息子を残す事に何の興味も示さず、残さなかった事も痛かった。

『六王権』軍空軍は完全に消滅した。

『恐れながら・・・』

そこに発言する者がいた。

「リタか、何か」

『はっ恐れながら私に愚考があります。もし宜しければお聞き頂く耳を』

「構わない。今はどのような手段も欲しい」

『はっ、では僭越ながら、こうなれば人間同士、共食いをさせてはいかがでしょうか?』

「共食い?」

『何だそりゃ、奴等もうちと同じく血を啜る習性でもあるのか?』

リタの一案を笑うでもなく、心底から疑問に思う『六王権』に『影』そして『六師』。

『違いますよぉ、リタが言っているのはぁ人間同士殺しあわせてぇ私達のぉ注意をそらすって事ですぅ』

リタの献策を補うようにスミレが舌っ足らずな口調で説明した。

「ふむ、同士討ちか。しかし、そうも上手く行くものか?」

『大丈夫です。人間は愚かな生き物。極一部を除けば、真に危機が迫らぬ限り団結する事はございませぬ。ましてや信じる神や人種、民族、国、肌の色、そのような些細な差異だけで同族を迫害し殺し合う事等日常茶飯事。陛下はアメリカに死者投下を行った後かの国がどうなっているか存じ上げておりますか?』

「・・・確かに、その策試して見る価値はある。リタ、これを献策するからには既に策の目処がついているのであろう」

『ご慧眼恐れ入ります。イスラム教、キリスト教と呼ばれる二つの宗教の一部信徒、また白人、黒人を情報で扇動する手筈は既に整っています。後は陛下のご裁可さえ頂ければいつでも発動できます』

「手際が良い。良かろう、その策、全権はお前に与える。見事成功させて見よ」

『ははっ』

「必要な物はあるか」

『それでしたら情報戦専用『ダブルフェイス』をしばしお借りいたしたく存じ上げます』

「判った。直ぐにそちらに送る。『影』直ぐに手筈を」

「御意」

「全員それで良いか」

『はっ!』

「宜しい。では次に・・・」









数日後、志貴、士郎はイスタンブール、ロンドンから撤退、日本に帰国した。

名目上、志貴は奇跡的に治癒された眼の療養、士郎は戦況が落ち着いた事による休養だった。

桜達を連れて帰国した士郎は直ぐに『七星館』に向かい、志貴と現在の戦況の再確認、今後の戦況について話し合う。

「姉さんの話だとイスタンブールには騎士団を主力として『彷徨海』、『アトラス院』を加えたアフリカ奪還部隊が編成、空路を使いカイロに向った順調に行けばもうカイロに到着している筈。到着後、後方支援体制の確立、情報収集などが整い次第、アフリカを西に進みジブラルタルを目指す」

「協会は俺が最後に聞いた情報だと『クロンの大隊』を主軸とした部隊がドーヴァーを渡る作戦が検討中だと言っていた」

「多分、ジブラルタルまで騎士団が到着してそれからになるだろうな」

「ああ、協会も馬鹿じゃない。単独行動やらかして自滅しかけたんだ。もうやらないだろう」

茶を啜り、茶菓子を食べながらと話の内容を考えればあまりにもミスマッチ極まりないが、本人達は真剣に今後の状況を確認している。

とそこに二人の携帯が同時になる。

「?俺のか」

「俺のもだ」

そう言ってまず士郎は志貴の携帯を通話状態にして志貴に手渡し、志貴は軽く頭を下げて謝意を示した。

それを見届けてから続いて士郎も携帯を開き通話状態にする。

「もしもし」

「もしもし」

『志貴か?士郎もいるのか』

「師匠??」

『あっ士郎?あれ志貴もいるの?』

「蒼崎師?」

志貴にはゼルレッチ、士郎には青子がかけて来た様だ。

『今『七星館』か?』

「はい」

『ではそこに行こう。電話越しよりも手っ取り早い』

『士郎今何処にいるの?』

「志貴の所です。今後の事を志貴と話し合っていました」

『そう、じゃあ今からそっちに行くわ』

「「はあ・・・判りました」」

同時に通話を切る。

「どうしたんだ師匠。心なしか慌て気味だったような」

「俺の方もだ。蒼崎師なにか焦っていたぞ」

思わず顔を見合わせあう二人だったが、一先ずゼルレッチ、青子の到着を待つ事にした。

そして、到着した二人に驚くべき情報を聞く事になる。

ゼルレッチ曰く、『中東にてイスラム過激派一斉蜂起、一部がイスタンブール防衛の国連教会連合軍とも交戦開始』

青子曰く、『アメリカにてイスラム、キリスト双方の極右派、更に白人排斥、黒人排斥思想主義者が同時に交戦開始アメリカは完全に内戦状態に突入した』と。

五十話へ                                                                四十八話へ